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NEOKETは即売会の新時代を切り拓けるか

2021年1月30日、記念すべき第一回NEOKETの記録

はじめに:暗澹たる一年

 こんにちは。イルカの人です。2020年に発生した新型コロナウィルスによる騒動は2021年に入ってもなお続いているようですが、わたしは運よくもともと家にこもっていたために特にあおりを受けることもなく、こうして筆を執っています。
さて、この情勢で最もあおりを受けた業界の一つと言えば、それは違いもなく同人誌即売会業界でしょう。地方で開催される小規模な即売会はもちろん、即売会の王者にして「同人誌即売会」という文化を生み出した先駆者でもあるコミックマーケットさえも開催中止に追い込まれ、業界は暗黒時代にあるといっても過言ではない状況です。「開催できなくてもせめてパンフだけでも買おう」といった有志たちの必死の支援で残喘を保ってはいますが、もはや糧道を絶たれては為すすべもなし、といった様相です。はたしてまた同人作家と読者が顔を合わせることのできる日は来るのでしょうか……

NEOKET:田を打つ二年目

 リアルで即売会が開けない、しかし打つ手がないわけではありません。そう、第一回コミックマーケットが開催されてから40余年、わたしたちは13柱のルートサーバからなるインターネットの力を手にしたのです。せっかくこんなに便利なものがあるのだから使わない手はないでしょう。――もちろん、そんじょそこらの一般人であるわたしが思いつくのですから、すでに多くのプラットフォーマーたちがインターネットを使ったC to Cの市場を作り上げています。ゲーマーなら毎日のように使うSteamはもちろんのこと、国内ではDMM通販や、特にpixivが運営するBOOTHはその手数料の安さや配送などのサポートの手厚さから強大な権威を得ています。
 しかし、「ああ、こんなにたくさんのプラットフォームがあるなら、きっと未来は明るい」と言えるでしょうか?否、断じて否です。即売会の本質は商品の売買にあらず、あの熱気と、イベントがリアルタイムに進行していく感覚、まさに我々日本人の心の奥底に眠る祭りの魂こそが同人作家と読者がリアルで一同に会することを支えているのです。
 さて、そこでpixivは快刀乱麻を断つかのような答えを出しました。「VRで同人誌即売会をやればいいじゃないか」と。もちろんVRで行われる同人イベントといえばすでに先日も第五回が去年末から今年の頭にかけて開催されたVketがあります。が、pixivは「リアルタイムに、本当に身振り手振りと音声でコミュニケーションが取れる即売会をやろう」と思ったのです。VRChat上で開催され、好きな時に好きなフレンドたちと巡れるVketとはまた趣の違う、一日だけリアルタイムに開催され、読者と作家が実際に対面して進行する即売会を。――そして、そのオンライン即売会のパラダイムシフトたるイベントの名前は「NEOKET」でした。

参加費はタダ?:薬籠中のもの

 サークル出展者としてNEOKETのことを語る上で、外せないポイントが一つあります。それはサークル参加費が無料であること。そう、これこそNEOKETの根幹であり、pixivにしかこのイベントが開催できなかった所以なのです。
 pixivが抱えるC to Cプラットフォーム、BOOTH。NEOKETはただ単に商品を売買しようというのではなく、「NEOKETアプリケーションの中から、BOOTHの商品を直接購入する」という革新的なシステムのもとに成り立っています。BOOTHの売上の一部は手数料としてpixivの懐に入りますから、商品が売れたら売れただけ出展者も嬉しいし、pixivも嬉しい。つまり誰かが一方的に損をしたり、分の悪い取引になってしまったりすることがない。この独特なマネタイズモデルとイベントの形式こそがNEOKETを新時代の即売会たらしめているのです。

XRCloud:清水の檜舞台

 さて、いくら「VRで即売会をやるぞ!」とはいっても、pixivはそんなコミュニケーションツールは開発していません。ということで、すでに同時多接続イベントの開催実績があるXRCloudに白羽の矢が立ちました。XRCloudはmonoAI Technologyが開発する数万人規模の同時接続が可能なVR/AR/xRプラットフォームであり、MMORPGで培ってきた「自分と近いユーザーは頻繁に同期するが、距離が離れるにつれ同期頻度やレンダリング品質が下がっていく」という独自のエンジンを用いて数千~数万人が「サービスに接続しているが、それぞれ隔絶された場所にいる」という形式ではなく、本当に数万のユーザーが同じ場所に集まれるという大規模なイベントの開催の実現を可能にしたのです。
 さすがにNEOKETではサークル島ごとに場所が隔絶されていたので本当に数万のユーザーが同時に集まることはありませんでしたが(そんなことをしたらユーザーの回線やPCが焼き切れてしまう)、これで実際にサークル出展者と参加者が会話をしながら商品の売買ができるプラットフォームの実現が可能になりました。

VRoid:時の氏神

 「VRで即売会をやるぞ!」といったら参加者の多くはバーチャル美少女の姿で漫ろ歩きすることを望むでしょう。ちょうどいい事にpixivはこの要望を叶えられるプラットフォームをすでに持っていました。そう、VRoid Hubです。「VRM」という形式にアバターを変換してアップロードすることで、対応しているプラットフォームに難しいことを考えずに持ち込めるというスグレモノです。このVRoid Hubの存在が、ユーザーが簡易にバーチャル美少女の姿でNEOKETに参加することを大いに助けました。

入稿フォーム:三位一体

 即売会と言えば欠かせないのが入稿フォームですが、NEOKETはここがかなり優秀でした。サークル名を入力し、商品の画像を登録し、先にBOOTHで販売開始してある商品ページのURLを貼る。たったこれだけです。BOOTHに置いてある商品を直接売買する形式であるゆえ、入稿もわざわざファイルをアップロードすることなく終わるし、当日の売上も普段のBOOTHの売上と同じように翌月に振り込まれるのを待つだけです。

開催当日:天気晴朗なれど波高し

 2021年1月30日、とうとう開催日がやってきました。入念なチェックにより音声コミュニケーションが安定して動作することが確認され、サークルスペースも一週間前より出展者が直接確認することで入稿のミスを訂正、当初はVIVEシリーズのみ対応予定だったVRモードもmonoAIサイドの虚心坦懐の努力により開催前日にOculus系HMDに対応したり、当日何のアナウンスもなく突然プリセットアバターが倍くらいに増えたりと、もはや開催前から成功は目に見えているような状態でした。
 しかし、好事にはいつも決まって魔が入るものです。いざNEOKETが始まってみると「アバターが読み込まれない」「ボイスチャットが機能しない」「VRモードで操作できない」などなど、篠突くように不具合が発生。そして参加者が多すぎてXRCloud側のサーバがダウンしてしまい、参加チケット取得ページにアクセスしてもタイムアウトしてしまう事態に。一時はどうなることかと思いましたが、即座にサーバを増強するというとんでもなく臨機応変な対応でなんとかチケット取得ができるように。しかしボイスチャットが上手く動かない問題やVRモードで操作ができない問題などはさすがに開催中には原因が分からなかったのか、運営から「調査中です」とのアナウンスはあったものの、けっきょく終始直ることはありませんでした。
 まあ音声が聴こえなくてもテキストチャットでのコミュニケーションは可能でしたから、サークル出展者もうまく立ち回ってチャットで呼びかけて記念撮影をしたりもしていました。一番重要なBOOTHと連携して商品を購入する機能に不具合が発生しなかったのが不幸中の幸い、波乱の中でもなんとかイベントは進行していました。わたしのサークルスペースにも何人か普段からVRChatやTwitter、mastodonで交流している人たちが遊びに来てくれました。感謝の限りです。

サークル交流会:メメント・モリ

 波乱万丈のNEOKETも予定通り18時にアクセスが不可能になり、これにて閉幕――という訳ではありません。ここからは運営によって用意された専用のワールドに集まって、サークル交流会が執り行われました。これがもう大盛況で、ほかのサークル出展者の皆さんからトイレの話やツナ缶の話など、たくさんの楽しいお話を聞くことができました。まさに芸は道によって賢し、ですね。サークル交流会はとても楽しかったので、今後もぜひ開催して欲しいところです。

サークル交流会の様子。よく見ると「えっ!?こんな方々と相席させていただいてよかったんですか!?」という感じの歴々たる方々が映っている
サークル交流会の様子。よく見ると「えっ!?こんな方々と相席させていただいてよかったんですか!?」という感じの歴々たる方々が映っている

運営のサポート:吉事門を出でず

 実はNEOKETにはサークル出展者だけが参加できる専用のDiscordサーバが用意されていました。具体的なことは書けないのですが、純粋な質問から入稿の方法、はてはNEOKETクライアントの不具合に至るまで、どんな書き込みがあっても数十分で直接対応してくれるというかなり手厚いサポートが提供されていました。特にNEOKETクライアントの不具合対応に関しては出展者から報告が上がってくる→NEOKET運営がmonoAIサイドに報告→返答を出展者に伝える……というかなり複雑な流れになっていたことを考えるとその苦労は相当なものだったのだろうと思います。
 ボイスチャットが機能しないことやその他の不具合から一般参加者からは酷評だった第一回NEOKET。ですが、わたしはその裏にある血の滲むような努力と、いつも最善を尽くしていた運営陣の姿を見ているので、とてもそれを批判することはできません。そして、「きっと彼らなら笑って第二回を迎えられるだろう」と信じています。

Licensed under CC BY-NC-SA 4.0
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